近畿大学通信で司書資格を取得した記録

近畿大学の通信課程で図書館司書資格を取得しました(2018年度)

図書館情報資源特論 レポート

<設問>

灰色文献とはなにか、灰色文献の定義や意義、特性について記述してください。また、灰色文献と言われる具体的な資料名を挙げて、その資料の特徴についても説明してください。

 

<回答>

1 はじめに

 灰色文献とは、発行が少部数で配布先が限定されていたり、所在確認や入手が非常に困難だったりする文献を指す。市販の誰でも入手できる資料を「白」、政治・軍事上の機密情報が記載されておりごく少数の者以外には非公開となる機密文書を「黒」とするとき、その中間に位置することから「灰色」と呼ばれている(伊東、p. 5)。

 

 

2 灰色文献の定義・意義・特性

 灰色文献の定義は、時代とともに変化してきた(図1)。最初の国際的定義は1976年の「通常の出版ルートを通じて刊行されない資料のため、入手が困難」という「ヨークセミナー定義」で、EC加盟国内で「下書き文書は含まない」ことも含めて、灰色文献についての共通認識を持つようになったところに大きな意義がある(池田、p.194、198)。その後、1995年の「IGWG定義」では、灰色文献は「国内外の公表された資料で、通常、特別なルートを通じてしか入手できないもの」と定義された(池田、p.194、198)。これら2つの定義の、①商業出版ルートの有無、②公表された資料(下書き文書を含まない)という2点が、その後の灰色文献の議論の基礎となっている(池田、p.194-195)。

 その後のインターネットの爆発的普及によって、灰色文献の定義は更に変化し、2004年には「紙や電子フォーマットで、政府、大学、ビジネス、産業のあらゆるレベルにおいて生み出されるもので、商業出版者によってコントロールされない」という「ニューヨーク・ルクセンブルク定義」が提唱された(池田、p.198)。

 その後も、継続審議中ではあるが、2010年には「プラハ定義」が提唱されている(池田、p.198)。

 灰色文献の定義は今後も変化し続けることが予想されるが、灰色文献が作られる状況の基本には、出版商業ルートに乗らないために入手が困難な前提と、存在が判明しているのに全文情報にたどり着けずに入手が困難な側面を持つという2点があると言える(池田、p.196)。そこで2014年には、政府や学術界、利害関係者などの「灰色文献を作成する側に対して働き掛けを行っていこうという意思を示した」ものである「ピサ宣言」が公表されたが、これは図書館情報学界による、より主体的な動きであるという点で画期的であった(池田、p.197)。

 

 

3 灰色文献の具体例

 灰色文献には以下のものが含まれる(伊東、p.5)。

 

政府刊行物:三権による国家機関が立法・行政または広報のため作成・発行した資料。例えば、国立国会図書館国立国会図書館法による納本制度があるにも関わらず、政府刊行物のうち商業流通資料の収集率は90%であるのに対し、非商業資料は46%にとどまる(長崎、p.55)。

 

②行政資料:政府機関や地方自治体及びその類縁機関、国際機関が刊行した資料。

 

③プロジェクトレポート、市場調査報告等:民間のシンクタンク、研究機関等が作成・発行したもの。

 

④学位論文:学位を取得するための論文で、審査大学と国立国会図書館に提供されるが、流通を目的としていないため資料的価値が高い反面、入手が困難。

 

⑤会議録:学会等での発表論文、ディスカッション等の記録を正式にまとめたもので、一般に参加者のみに提供されるため入手が困難。

 

⑥その他:近年では、画像や動画などの研究データや研究者同士の電子メールも灰色文献に含めることがある(福山)。

 

 近年は、インターネットの普及やオープンアクセスの発展によって、以前よりも全文にアクセスすることが容易になった。しかし、インターネット情報の公開は提供者側に委ねられており、恒久的なアクセスは保障されていない。オープンメタデータなどの書誌情報の標準化等によって、灰色文献の存在を知る機会は多くなる一方、全文へのアクセス保証がないため、今後は更に全文への恒久的アクセスが課題になっていくだろう(池田、p. 196)。

 そのような状況に対処するため、例えば、奈良文化財研究所では『全国遺跡報告総覧』や『考古学関連雑誌論文情報保管データベース』を作成・公開し、考古学分野の灰色文献を減らすよう努めている(森本)。ほかにも、総務省の総合行政ポータル『e-GOV』や、国立国会図書館の調べもの窓口サイト『リサーチ・ナビ』なども活用できるだろう(長崎、p.58)。

 

 

4 おわりに

 現代社会では情報が極めて重要であることから、情報の自由や知る権利、情報へのアクセス権などが主張されており、例えば日本では、情報公開法を定めて行政の説明責任を果たすよう努めている(伊東、p.103、105-106)。図書館には情報を収集・提供するという基本的役割があり、現在の情報過多とも言える社会では図書館における「図書の選択」は極めて困難ではあるが(伊東、p.56)、利用者の知る権利を保障するため、図書館は灰色文献の収集・整理・提供・保存等について、担うべき重要な役割があると考えられる。

 

(2024字)

 

<参考資料>

 池田, 貴儀.(2015).「インターネット時代の灰色文献::灰色文献の定義の変容とピサ宣言を中心に」.『情報管理』, 58(3), 193-203, 科学技術振興機構. 取得日:2019年〇月〇日. https://doi.org/10.1241/johokanri.58.193

 

伊東, 明.(2012).『図書館情報資源特論』. 近畿大学通信教育部:大阪

 

長崎, 洋.(2012).「古典的灰色文献の現状と展望 : 政治・法律・行政分野を中心に(<特集>灰色文献)」.『情報の科学と技術』, 62(2),  55-59, 情報科学技術協会. 取得日:2019年〇月〇日. https://doi.org/10.18919/jkg.62.2_55

 

福山, 樹里.(2012年12月28日).「灰色文献の最前線:研究データの収集・管理・提供<報告>」.『カレントアウェアネス-E』, (229), E1382. 取得日:2019年〇月〇日. http://current.ndl.go.jp/e1382#comment-0

 

森本, 晋. (2016年10月3日). 灰色文献 [ブログ]. 取得日:2019年〇月〇日. https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2016/10/20161003.html

 

【図1】「表1:灰色文献の国際会議と灰色文献の定義」. 取得元: 「インターネット時代の灰色文献灰色文献の定義の変容とピサ宣言を中心に」(p.198). 池田 貴儀.(2015). 取得日:2019年〇月〇日. https://doi.org/10.1241/johokanri.58.193

 

 

 

【感想など】

図書館サービス特論のレポートが連続不合格で諦めかけて、こちらの図書館情報資源特論も追加履修しました。結果的には両方受かったので、まあ余分に勉強できてラッキーと思うことにしました。

と言うわけで追加履修で急いで書いた分、このレポートは全体的に散らかっていてぼんやりしてしまったと自分でも思います。ただでさえ2000字でレポートを書くってすごく難しいので、もう少し時間をかけてきちんとやりたかった感は残ります。

講評は「灰色文献の特徴について記述できていますが、意義について記述しましょう。利用者にとってどのように役に立つのかを記述しましょう。」とのこと。