近畿大学通信で司書資格を取得した記録

近畿大学の通信課程で図書館司書資格を取得しました(2018年度)

生涯学習論 レポート

<設題>

ラングランの生涯教育的思想とリカレント教育の思想の社会的背景について考えてください。

 

<本文>

1 ラングランの生涯教育的思想について
生涯学習」という言葉は、実は、学術的定義が曖昧である。2006年に、教育基本法の第3条に初めて「生涯学習の理念」の規定が設けられた(鈴木、p.40)。それによると、生涯学習によって、「自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができる」ように、「生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現」を目指すべき(鈴木、p.183)、とあるが、これは定義ではなく、政策的な目標に過ぎないのである。
「生涯教育」という言葉は、1965年にユネスコの成人教育部長であったポール・ラングランが初めてフランス語で発した言葉が翻訳されて以降、日本で定着してきた(鈴木、p.5)。ラングランは、1965年のユネスコ成人教育推進国際会議において、脱学校型の新しい学習の概念を示すため、初めて「生涯教育」という言葉を用いた(渡部、p.16)。「学校以外の教育を、学校の教育と同じように、全体として考える必要がある」という基本的理念のもと(鈴木、p.6)、「生涯教育」という言葉は、それ以前の学校中心の教育観とは一線を画すものとして、全世界に広がりを見せた(渡部、p.17)。
 その背景には、社会の急速な変化が関係していた。日本では、第二次世界大戦以降、科学技術や社会の在り方自体の急速な発展に伴い、学校教育だけでは人々の生活を支えきれなくなっていた(鈴木、p.6)。一方、学校教育の普及していない発展途上国でも、就学による国民全体の学力向上によって国力の増強を図ることが重要視される中で、学校から学校後までカバーする「生涯教育」という考え方は、当時の時代に即した、社会に必要とされる、全世界的な「教育改革のキイ概念」であったのである(鈴木、p.7)。


2 リカレント教育の思想について
 ラングランの「生涯教育」の概念と比較して、より職業的な側面を強く持つのが、「リカレント教育」である。リカレント教育は、OECD経済協力開発機構)が1973年に出した報告書で提唱された発想で、それ以前の「教育を受ける期間が終わると、労働の期間になる」という「フロンド・エンド・モデル」から、「教育の期間と労働の期間が繰り返される」という、回帰・循環という意味を持つ「リカレント・モデル」への転換が示されたものである(鈴木、p.12)。そのため、リカレント教育は学校教育により近いもので、全出席や単位制を要求する考えが根本にあった(坂本、p.148)。
  例えば、イギリスでは、義務教育終了後の2年間の教育・訓練の義務的継続や、成人向け「上級学習ローン」の充実、「働きながら職場で訓練を受けたり、教育訓練機関に通って専門知識・技能を身に付け」て資格取得を目指す「見習い訓練制度」の拡充などを、見習い訓練振興税等で財源を確保しながら、政府が主導してリカレント教育を推進している(文部科学省生涯学習政策局、pp.62-66)。
 日本では、1992年の生涯学習審議会の答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」において、リカレント教育を推進し、国公立大学生涯学習センター設置や、社会人向け高等教育機関の門戸拡大を促進した(佐々木、p.52)。しかし、リカレント教育が再雇用や転職につながりにくい日本では、機会が与えられても学習意欲が低下してしまうという問題もある(佐々木、p.58)。


3 社会的背景について
 日本では、1971年に社会教育審議会の答申「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」に「生涯学習」が登場してから、その後の中央審議会等でも常に重要な項目として言及され、その理念が教育政策の中核となっている(渡部、pp.17-18)。特に、戦後の学歴社会が問題視された際に、それを変革するものとしての期待もあったが、教育機会の均等と教育成果の平等とはイコールではないことに注意するべきで、生涯学習社会が、学歴社会の問題をすべて解決してくれるものではないことを理解する必要がある(鈴木、pp.18-20)。それでも、生涯学習活動を通じて学んだ成果は、個人だけでなく、社会にも還元される場合もあることから、行政が社会教育として提供することが重要だと言える(鈴木、p.21)。
 2008年に図書館法が改正された際、図書館の役割に、「学習成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会」の提供が盛り込まれた(鈴木、p.41)。しかし、図書館はいまだに社会において生涯教育の場としての認識が薄く、その向上のためには、他の社会教育施設との連携や行政職員への教育による相互理解と交流、広報の工夫等が必要である(鈴木、p.145)。
 ラングランの生涯学習の理念は、社会を変革しうる概念だからこそ世界中で受け入れられた。リカレント教育は、職業的発展への繋がりが期待されている。このように、生涯学習は、個人の学びだけでなく、社会的課題の解決策としてもとらえることによって、非常に重要な意味を持ってくると言えるだろう。

 

<参考資料>

坂本, 辰朗. (1979). 「地域社会への教育サーヴィス : コミュニティ・カレッジの場合」. 『哲學』, 70巻, 145-168. 東京:慶応義塾大学. https://ci.nii.ac.jp/els/contents110007409167.pdf?id=ART0009260486

佐々木, 邦子. (2002). 「成人教育と労働に関わる現代的課題-日本におけるリカレント教育の意義の一端を探る」.『生涯学習研究と実践』, (2), 51-65. 北海道:北翔大学. http://id.nii.ac.jp/1136/00002417/

鈴木, 眞理., 馬場, 裕次朗., 薬袋, 秀樹(編著). (2018). 『生涯学習概論』. 東京:樹村房.

文部科学省生涯学習政策局. (2017). 『諸外国の教育動向 2016年版』. 東京:明石書店.

渡部, 幹雄. (2016). 『ライブラリー 図書館情報学1:生涯学習概論』. 東京:学文社.

 

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【感想など】

ものすごく添削が早く、講評も「テキストに沿って、分かりやすく書いており、よくできています」とシンプル。ある程度教科書をまとめればいいし、参考文献も多く見つけやすいので、初めの方(5月)にやってみてよかったです。