図書館情報技術論 レポート
<設問>
自身の考える新図書館構想について論じなさい。
本科目では、図書館における情報技術を切り口にして、基本的な学習をしました。
それらの情報技術を総合的に活用し、将来の図書館はどうあるべきかについての自身の考えを、レポートにまとめなさい。
<回答>
1.はじめに
図書館は長い間、紙媒体を中心として利用者に情報を提供してきたが、現在の高度情報化時代においては、電子資料の提供や、ICタグや人工知能など新しい技術の活用が利用者と図書館の双方にとって重要になっている。
2.電子資料の提供
(1)利用者にとって
電子資料の提供は、利用者サービス向上に欠かせない。現在主流のオンライン型電子資料は、インターネットと機器さえあればいつでもどこでも利用でき、非常に利便性が高い。例えば、デジタル化された雑誌の本文を検索・閲覧できる電子ジャーナルは、速報性があり、全文が容易に検索・閲覧できるなどのメリットがある(田窪、pp.112-113)。
一方で、インターネット接続機器の有無などによって一部の利用者がサービス対象から外れてしまうデメリットもある(斎藤、p.58)ため、図書館は電子資料の提供時には工夫が必要である。例えば、静岡県の浜松市立図書館は「ITを活用した読書環境の整備および多言語教育によるグローバル化促進」のため民間企業の電子図書館サービス「Rakuten OverDrive」を導入したが、同時にWi-Fi環境とタブレット端末を図書館に設置した(楽天株式会社)ことで、誰でも電子図書館を利用できるようになった。
(2)図書館にとって
電子資料の活用は、利用者だけでなく図書館にもメリットがある。従来主流であったCDなどパッケージ型電子資料は、管理の困難さや再生手段の陳腐化が問題になっていたが、近年主流のオンライン型電子資料ならばそれらの問題からも解放される(斎藤、pp.51-53)。例えば先に挙げた電子ジャーナルは、管理場所や未着・欠号のチェック作業、製本作業が不要になるなど、作業の効率化にもつながっている(田窪、p.113)。
一方で、例えば電子ジャーナルは、契約費用の増加で予算管理が困難であることや、出版者ごとの煩雑な契約、継続判断の難しさなどのデメリットも生じている(田窪、p.113)。
そのため、全てを電子資料に頼るのではなく、従来の紙媒体等と融合した「ハイブリット図書館」を目指していくことが重要になるだろう(斎藤、p.56)。
3.新しい技術の活用
(1)ICタグ
これからの図書館は、電子資料の提供だけでなく、ICタグ等の新しい技術の活用も重要になる。ICタグは正式にはRFIDタグと言い、大量の情報を蓄積できるほか、従来のバーコードと異なり一度に大量の読み取りが可能なため、貸出・返却作業の合理化や自動貸出の実現、蔵書点検の効率化など、様々なメリットがある(田窪、p.95)。
ただし、ICタグはバーコードと比較して非常に高価で、張替が煩雑、また情報が図書館以外の第三者によって読み取られる危険性があることなどから、日本の図書館での導入は進んでいないのが現状である(田窪、p. 94, 97)。それでも、導入館を対象とした調査では、読取エラーなど問題もあるものの、利用者・図書館の両者がICタグの利便性の高さに恩恵を受けている旨の回答が複数見られた(後藤、p.101)ことから、より安価で機能の安定したICタグが提供されるようになれば、図書館での利用は爆発的に広がるであろう。
(2)人工知能(AI)
AIの活用が進めば、利用者も図書館の情報取得の利便性が増す。近年、「これまで情報提供を主な業務としてきた大学図書館が、学習の「場」の提供をも担っていくべきとする考え方」のもと、学生や研究者などが自由に学習できるラーニングコモンズという環境を提供するようになってきている(常川、p.1)。その理念を基に作られたコミュニティ志向型図書館システム「shizuku2.0」では、貸出履歴や読書メモ、参考とする他人のアクティビティなどの情報を基にした新たな機能を提供しており、「図書館利用者が資料の検索や閲覧を行っている過程で、資料に関連した読書レシピを参照しそれに沿って情報収取や読書を行う」ことなどが可能になっている(常川、p.2-3)。
AIは、図書館側でも活用できる。既に書店向けには民間企業が開発したAI選書サービスが提供されているが(日本出版販売株式会社)、図書館でも分野別に所蔵状況や過去の選書データから今後選定されるであろう資料を予測することで、ある程度まで選書の自動化が図れるだろう。
4.おわりに
図書館では既に電子資料の提供が利用者・図書館双方にとって欠かせないものとなっている。最新技術の活用による図書館の電子化が更に進めば、従来の資料という概念すら曖昧になり、自由にリンクできる個別情報として扱われる可能性すらあるだろう。アナログとデジタルの融合した未来のハイブリット図書館でも、人間だからこそできる司書としての役割があるはずで、これからの司書は時代に対応し、更に進化する図書館を創り上げていく必要があるだろう。
(1995字)
<参考資料>
後藤, 敏行. (2012). 「図書館におけるRFID業務の課題 : 導入館への質問紙調査から」. 『図書館界』, 64(3), 190-203, 日本図書館研究会. http://hdl.handle.net/2241/117577
斎藤, ひとみ., 二村, 健. (2012). 『図書館情報技術論(ベーシック司書講座・図書館の基礎と展望2)』. 東京:学文社.
田窪, 直樹 (Ed.)., 岡, 紀子., 田中, 邦英. (2017). 『改訂 図書館と情報技術~情報検索能力の向上をもめざして』. 東京:樹村房.
常川, 真央., 小野, 永貴., 松村, 敦., 宇陀, 則彦. (2018). 「学習ノウハウの共有を支援するコミュニティ指向型図書館システム」. 『JSAI大会論文集』, JSAI2010(0), 1-4, 一般社団法人 人工知能学会. https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2010.0_2B21
日本出版販売株式会社. (2018年5月14日).「日本出版販売と富士通、AIを活用した選書サービス「SeleBoo」を共同開発書店員の知識や感性をAIが機械学習し、売り場の魅力向上を支援[プレスリリース]」. https://www.nippan.co.jp/news/seleboo_20180514/
楽天株式会社.(2017年11月1日). 「楽天、浜松市と電子図書館に関する連携協定書を締結 [プレスリリース] 」. https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2017/1101_03.html
図書館情報技術論 (ベーシック司書講座・図書館の基礎と展望)
- 作者: 齋藤ひとみ,二村健,石井大輔
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【感想など】
テキストはテスト勉強用に使い、レポートはほとんど参考文献を使ったような記憶があります。
添削されて戻ってくるのに、提出してから1か月近くかかりました。